重野 梨那のストーリー
私の仕事への想い、そこに至るまでのいろんな出会い。
第三者目線の「人生ストーリー」として紡いでいただきました。

理念を掲げ、再出発できる世の中に

重野さんは笑うと、くしゃっとした顔になる。大きな目は弧を描いて細くなり、きれいに並んだ歯を見せて、楽しそうに、嬉しそうに笑う。あぁ信頼できる人の笑顔だ、と私は思う。

ライターである私 石原は、自身の事業「ココロツムグ研究所かげいろ」の理念を、重野さんに約半年間伴走してもらって策定した。ここでは、そんな私から見た重野梨那という人物のことを書いてみたい。

自分が乗り越えてきたからこそ

重野さんは、株式会社Color Branding代表として、企業や個人の理念づくりを中心としたサービスを提供している。人が「自身の想いや個性・特性に向き合い、確固たる軸を創ることで前に進み始める」ための支援というのが、彼女が提供したい中心的な価値だ。

Color Brandingは2022年12月に法人化。元は会社員として働く傍ら、副業としてはじめた「企業理念の策定サポート」の需要が高まり、事業をはじめて1年ほどで独立した。そこからおよそ1年半、方向性を模索しながらも法人化まで走り続けてきたのだった。

「自分の心の声ややりたいことが、やっとカタチになってきた感じです。人生で挫折を味わった8年前、再出発を決意したときに思い描いた景色が見えたような気がします。自分の意思を明確にして、それを信じて積み重ねてやってきたからこそ、今実現しているのでしょうね」

そう話す重野さんは、ほんとうにいい笑顔をしている。そして、これから自分が進んでいく方向性にぴたっと焦点があった今、具体的にやりたいことが、次から次へとあふれ出てくるようだ。

「“再出発”がキーワードです。自分なりにもがいてやってみたけれど、その実績や感情を整理して、新たにスタートを切りたい、という方にいちばんお役に立てるのではないかと感じるようになりました。

これまでは、企業や個人事業主の理念の策定をお手伝いしてきましたが、私のなかで、どちらも土台は “個人”だと常々感じていました。それをはっきり認識した際に、企業向けのサービスに絞る必要はないと思ったのです。より多くの人にサービスを届けたい、個人の方の、人生100年時代をどう生きていくかの自分軸づくりもお手伝いしたい、と考えるようになりました。子育て中のママさんにも何かお役に立てそうな気がしています」

自分のなかにある熱い想いを、5か年計画でかたちにしていきたい、と考えているのだそう。

「熱い想いはある、それをどう実現していくか―これ、自分自身がクライアントみたいな感じなんですよね」

自分のなかの熱い想いを冷静に分析できるのは、重野さんの特徴だ。情熱と冷静さとをバランスよく持ち合わせている人は、そう多くはない。それに加え彼女は、人や組織を引っ張っていく力と、フォローする力の双方をも兼ね備えている人なのだ。

リーダーであり、サポーター

実際、私自身が重野さんに理念づくりをサポートしてもらって、彼女の「引っ張っていく力」と「フォローする力」のバランスのよさを強く感じた。

しっかりと導いてもらっている感覚はあるのに、無理に誘導されている感じは全くしない。私から出てくる言葉を丁寧に拾いながら、「それって、こういうこと?」「それは他の人にはない価値ですね!」「こういう場合はどうですか?」と、私が自分で「気づく」ためのサポートをしてくれるのだ。

ほんの少しだけ斜め後ろを走りながら、耳元で、走る方向やペースについての的確なアドバイスをくれる伴走者―マラソンに例えるならそんな感じだ。

聞けば、中学高校の部活や大学のサークルでは、100人規模の部員たちをまとめる立場だった、という。一方で、若くして家族の闘病生活を支える立場となったこともあり、支えることも自然にできるし、「支える人」の気持ちをくみ取ることもできる。生まれもった「リーダー的資質」と、経験からくる「サポートのスキル」、両方を持ち合わせているのだ。 大学の教育実習で、先生や保育士、保護者など、子どもを支える側のサポートの必要性を感じ、「現場を支える人の支えになりたい」との気持ちが湧いたという重野さん。この想いが、「幸せな出産・子育てを応援する」がスローガンの(株)赤ちゃん本舗への就職へとつながった。

客観的な分析力を味方につけて

赤ちゃん本舗で、店舗での販売を通じてマーケティングに興味を持った彼女は、店舗企画やマーケティングの業務を担当するように。そのなかで、お客様のためにもっと良くしたいという想いが生まれ、さまざまな角度から事業改革を進めていった。しかし、お客様のニーズよりも社内事情が優先され、意思決定がされてしまうという場面に遭遇し、立場や権限だけでは、改革できることに限界があると感じた。

そんなときに、当時まだ社内では浸透していなかった市場調査=マーケティングリサーチの手法と出会う。

「今まで感覚的に捉えていたものを、きちんと数値化して、思っていることを伝えられるというのはかっこいいなって思ったんです」―広い世間の意見をデータとして収集し、その分析に基づいて表現できるということは、適切な改革を進めたい彼女にとっては、大変な魅力だった。

重野さんは、この調査が持つ可能性を社内で活用するだけにとどまらず、もっと幅広い分野で追求していきたいと、マーケティングリサーチの大手、(株)マクロミルに転職を決める。

マーケティングリサーチとの出会いは、重野さんに大きな影響を与えた。客観的な分析力は、現在の重野さんの仕事においても欠かせないスキルのひとつだし、調査を活用して改革を成し遂げ、その後もお客さまと密に関わり共に歩みつづけたいという気持ちもまた、今でも彼女の中心にある想いなのだ。

「ありたい姿」を大切に

重野さんは20代後半、赤ちゃん本舗を退職する少し前から、「自分の幸せ」について考えはじめた。結婚を考えていた恋人との、価値観の相違からくる別れ。長く闘病生活を支えてきた姉から、回復した際に言われた「あんたには幸せになってほしい」という言葉。

「幸せ」という言葉が妙に気になったことが、考えはじめるきっかけになった。

自分にとって「幸せ」って何なのだろう……これまで、「人のためになること」ばかりを追いかけてきた重野さんにとって、自分とじっくりと向き合うのは、初めてのことだった。

外へ向かうコミュニケーションは好きで得意。しかし、内に向き合うことはどうだろう―自分を知らないから、どうすれば幸せを感じられるのかが分からなかった。社内では、やりたいことができる立場にいて、そのことに関して満足感はあった。しかし、ふと「会社」の枠を外してみると、自分がやりたいことが分からなかったのだ。自分の根底の部分に自信が持てなくなり、進んでいく人生に、一度ブレーキをかけた。

そこで、いろいろな手段で自分を知り、強みを知ろうとした。そのひとつとして学んだのがパーソナルカラー診断。しかし彼女は、自分に似合う色を探す段階で、自分のあるべき姿をはっきりさせるべきだと気がついた。まずは内側の自分がどうなりたいかがはっきりしないと、何が似合うかなんて一生見つからない……それは、現在Color Brandingのサービスの軸となる「理念づくり」の考え方につながった。

そして、一人ひとりが心の底から光り輝く人生を歩める社会にしたい―そんな自分の想いに気がついた。自分が本当にやりたいことが見えてきて、彼女のなかに「ブレない価値観」が姿を現した瞬間だった。

自身の経験を糧として、明るい未来のための伴走者に

副業としてはじめたColor Brandingの「理念づくり」は思わぬ反響を呼んだ。本業の繁忙期と重なると、重野さんと一緒に理念をつくりたいというお客様を長期間待たせてしまうほどだった。どこに時間を使うのが自分にとって幸せかを考えたときに、「リサーチャーは他にもいる」と感じ、マクロミルの退職を決意。

「 “あるべき姿”がないと、正しく進んでいるかどうかの指標を持てません。世間からの評価や、売り上げが上がることも指標かもしれないけれど……自分たちの存在意義があって、目標があって、それがちゃんとできたかどうかで指標を取るべきです。その軸をしっかりつくらないと、流行や人の意見に振り回されてしまいます」

重野さん自身が、人生で一度立ち止まって、時間をかけてしっかりと自分を見つめ直したから。

自分が生きていくうえでの理念として、「一人ひとりが心の底から光り輝く人生を歩める社会」を目指すと決めたから。

その想いを胸に自分自身の人生の舵を取ってきて、「今がいちばん幸せ」と思えるから。

彼女は今、個人や企業にとっての「あるべき姿」を明確にする必要性を心から感じ、人生をかけて、そのために活動していきたいと感じている。

重野さんと一緒に理念づくりをした私も、理念を掲げ、再出発することの大切さをひしひしと感じている。

「自分が経験したこれまでの出来事すべてを、好転させたいと思っているんですよね」

そう思う重野さんだからこそ、私がこれまで積み重ねてきた一つひとつのことも、大切に扱い、これからの人生にプラスになるよう、意味付けをしてくれたのだ。

ただの思いつきでもまとめでもない、しっかりとした根拠のある「理念」―そんな「自分が進むべき道」が見えると、自信を持って堂々と歩んでいける気がする。 一人ひとりが理念を掲げて生きていく世の中は、今よりきっと明るい。私は、重野さんがつくりたいと思う世の中に、深く共感せずにはいられない。そう私に思わせるのは、重野さんが掲げる理念と、その理念に従って行動してきた彼女自身の、現在のいきいきした笑顔なのだろう。

取材・執筆
ココロツムグ研究所かげいろ 石原智子